2016年5月14日土曜日

文献紹介 本間久英『石の魔力で夢をかなえる』(マガジンハウス、1996年)

 筆者の本間久英氏は、下の論文で先日紹介しました。

文献紹介 本間久英「埼玉県に言い伝えられている石(岩石)」(2002年)

 専門は地質学者という本間氏。
 上の論文も専門をやや飛び越えたものでしたが、今回紹介する『石の魔力で夢をかなえる』も、なかなかの攻めのタイトル。

 タイトルと筆者経歴から、石の魔力を理化学的な視点で解説してくれる新境地の本かと勝手に想像していました。
 2割ぐらいはその内容もありましたが、予想よりもパワーストーンの概説書でした。水晶など、宝石の記述に偏り気味です。いわゆる花崗岩など、ありふれた岩石はスルーされています。

 見出しの中にはチャクラやヒーリング、チャネリング、ダウジング、水晶占い、気功・・・と、1996年当時のブームの香りをふんだんに反映した内容。

 これはこれで貴重ではないでしょうか。
 というのも、最近、あまりこれらの言葉、聞かなくなったと思いませんか。
 数年前のスピリチュアルブームで、この業界の空気も完全に変わったと感じます。
 はやりものというものも、諸行無常です。

 本書を執筆するにあたって、本間氏はおそらく当時のはやりものを渉猟して、それに立脚したのだと思います。
 たとえばダイヤモンドは「理不尽な命令をはねのけ、自分が正しいと信じている方向へ進めるように持ち主を導く」(p50)と断言し、アマゾナイトは「冒険と夢の石」で「見果てぬ夢を追いかけて、その実現に努力する」(p67)効果があり、オブシディアン(黒曜石)は「常に戦う心を持ち続け、冒険を恐れない人」(p73)にふさわしいといいます。
 「~という」と伝聞形ですが、その根拠や出典がはっきり書かれていません。

 こう見るとトンデモ系と評価付けられかねないのですが、そこは本書の「はじめに」と「あとがき」を読むと、本文との温度差があり、味わい深いものがあります。
 本間氏は「わかって書いている」節があります。科学者としてこのような本を書いていいものか逡巡したことや、パワーストーンの効能は科学的な立証はないと断りを入れています。全体的に初心者向けの文章構成にしていることや、わざとらしいくらいにハウツー本を意識した手引き的要素が濃い。いずれも、わかってやっている感が漂います。
 本間氏の言葉を借りるならば「そのようなことがあっても不思議はないな――」(p164)というスタンスです。

 では、本間氏をそう思わせ、本書を書き上げた動機とは何なのか。
 それは周りの人に石にはまる知人や教え子が多く、彼らから聞く話に、石を持ってから体が治ったり、子供が生まれたり、探し人が分かったりしたという奇跡的なエピソードを複数聞いたことが大きいようです。
 それはもちろん、石とエピソードの因果関係の裏取はなく、また統計的な根拠にも欠けるものでしょう。本間氏もすべてを信じすぎではないかと思いますが、周りがそういう人たちで固められていたのなら、これも1つの心理として自然です。

 私は、周りにそういう人もいなく、自分自身にそういう体験がなかったので、まるで本間氏の世界が別世界です。 世界が違うのです。

 言うなれば、これは本間氏にとっての石の哲学書です。
 もう少し正確に言うなら、1996年の時代の香りを吸いすぎた、石の哲学かもしれません。
 この「世界の違い」を違和感を抱きながらも読み、理解するという作業は、哲学的です。私にとっての本書の楽しみ方とは、ここにあります。

 コラム「食べる石」は、石が漢方の世界では薬として食べられていたことを概覧するもの。このページは知識面で勉強になりました。
 こういう学問的内容もいきなり登場するのが本書の特徴。

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インタビュー掲載(2024.2.7)